大嶋・谷野・松井研究室 (群馬大学)

主な研究の詳細


高電圧パルスとは?

高電圧パルスとはマイクロ秒以下の印加時間で、数千〜数万Vの電圧を印加することです。瞬間的な高電圧を印加することは、通常の直流電圧や交流電圧を印加することと異なった、ユニークな現象が観察されています。高電圧パルスは左図のように、AC100V交流電源から比較的簡単な回路で作ることができます。また近年、印加時間ナノ秒にしたナノ高電圧パルスも利用されつつあります。私たちの研究室ではこのような高電圧パルスのバイオ分野への応用を試みています。

非加熱パルス殺菌に関する基礎的研究

高電圧パルスを微生物懸濁液に印加すると左図のような細胞膜の繰り返し圧縮が起こります。この膜圧縮が限界を超えると細胞膜の脂質分子が乱れ、電気的には絶縁破壊、細胞的には膜破壊が発生します。したがって高電圧パルスで微生物を殺菌することが可能です。一般に最も普及している微生物の殺菌方法は加熱殺菌で、これはタンパク質の熱変性が殺菌原理です。左図の高電圧パルス殺菌は加熱殺菌の原理とは異なり、細胞膜の物理的破壊が主要な原因と考えられており、実際、加熱しなくても微生物の殺菌が可能です。私たちの研究室では高電圧パルス殺菌の基礎特性を調査してきました。

生乳の非加熱パルス殺菌

スーパーで市販されている牛乳は加熱殺菌が施されています。しかし熱によって風味が損失する可能性が問題として提起されており、非加熱の殺菌方法の開発が求められています。従来の液状食品などの殺菌を目的とした高電圧パルス殺菌を牛乳に応用することを試みました。バッチ式処理槽において印加電圧40 kV、30 secのPEF処理を行うことで牛乳中の大腸菌を殺菌することが可能であることが確認されました。そこで連続的に殺菌できる諸条件を検討した結果、左図のようなプロセス条件で確実に大腸菌を死滅できることがわかりました。パルス処理後から冷却までの時間(保持時間)が殺菌効果に影響を与え、保持時間が長いほど殺菌効果が高くなることがわかりました。また保持時間中の温度が殺菌効果に影響を与え、温度が高いほど殺菌効果が高くなることがわかりました。印加電圧40 kV、処理時間10 sec、保持時間20 sec、保温温度70℃でパルス殺菌処理を行うことで10^7 cells/mLの大腸菌懸濁牛乳を滅菌することが可能でした。

マイクロバブルと高電圧パルスの併用による殺菌

マイクロバブルやナノバブルは近年ウルトラファインバブル(UFB)と定義され、様々な研究が行われています。私たちの研究室ではマイクロバブルを水中放電発生のトリガーとして用い、水中放電の発生効率の向上と、微生物殺菌への応用を試みました。実験装置は左図です。この結果、 処理液中のマイクロバブル数がより多いほど、より顕著に生菌率が減少することがわかりました。またエタノール濃度が10.0 %(v/v)以下の処理液では、エタノールが大腸菌の生菌率に及ぼす影響は殆ど無いことも確認しました。同じ印加電圧で渦流ポンプ式のマイクロバブル発生装置と生菌率を比較したところ、SPG膜式のマイクロバブル発生装置を使用したときの方が殺菌効率が良いこともわかりました。

様々な放電プラズマ反応器を用いた界面活性剤の分解

界面活性剤は陰イオン系・陽イオン系・両性イオン系・非イオン系・の4種類に分類され、洗剤・乳化剤・柔軟材など種々の分野でさまざまな目的に使用されています。その中でも陰イオン界面活性剤は洗浄力が高く、泡立ちが良いことから、家庭・工業で使われる合成洗剤の主成分として不可欠な物質です。この陰イオン界面活性剤の中でも直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム(LAS)は洗浄力が強く生分解性を有しているため、広く使用さrていますが、生分解性が低いことから、環境への蓄積が問題となります。そこで本研究室では放電プラズマを気液界面で発生させ、LAS分解を試みました。様々なタイプの放電プラズマリアクターを使用しましたが、左図は濡れ壁式のコロナ放電リアクターによるLASの分解特性です。

沿面放電を用いた粒子状食品表面の殺菌技術の開発

小麦粉や米,香辛料等の粉体及び固体の食品原料は、植物を乾燥あるいは脱穀や粉砕することで製造され、食品の種類により大きさはさまざまであるがおおむね数十 mから数mmの範囲です。その製造現場は微生物汚染防止等の処置が施されていない場合が多く、製品に大腸菌群やサルモネラ菌などの微生物混入を避けることができません。そこでこのような食品原料に付着した微生物をあらかじめ殺菌しておく必要があります。私たちの研究室では主にコショウを対象とした、沿面放電(DBD)を用いた新しい殺菌装置の開発を試みています。左図は石英ガラス管に沿面放電を発生させ、そこに黒コウジカビを付着させたコショウ粒を入れたときの装置図と、黒コウジカビ胞子の殺菌挙動です。4分ほどの処理で菌数が1/1000以下となっています。


その他、高電圧技術をベースに、様々な応用展開を試みています!

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